ソーシャルワーカーとして働き、13歳の娘とNYで暮らすシルヴィア。若年性認知症による記憶障害を抱えるソール。それまで接点もなかったそんなふたりが、高校の同窓会で出会う。家族に頼まれ、ソールの面倒を見るようになるシルヴィアだったが、穏やかで優しい人柄と、抗えない運命を与えられた哀しみに触れる中で、彼に惹かれていく。だが、彼女もまた過去の傷を秘めていた──。
静かで規則正しい生活を送るシルヴィアを演じるのは、『タミー・フェイの瞳』でアカデミー賞🄬主演女優賞、『ゼロ・ダーク・サーティ』でゴールデングローブ賞ドラマ部門女優賞を受賞したジェシカ・チャステイン。名実ともにハリウッドのトップスターのひとりとなった彼女が、自ら街のショップで衣裳を選び、ヘアメイクを施し、人間関係に葛藤しながらも何とか前へ進もうともがくシルヴィアへと転身した。ソールには、『ニュースの天才』で数々の賞に輝いたピーター・サースガード。残酷な運命が、それでも少しだけ残してくれた遠い記憶を慈しみ、亡き妻との思い出の曲を繰り返し大切に聴き続けるソールを情感豊かに体現し、本作でヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞。
舞台は最先端のアートとカルチャーが生まれ、多種多様な人々の活気で溢れ、いつの時代も魅力を放ち続ける街、ニューヨーク。ブルックリンの街並み、地下鉄、マッカレン公園など、ニューヨークの今の素顔が映し出される。
ソールのお気に入りの曲として、何度も流れる楽曲は「青い影」。イギリスのロック・バンド、プロコル・ハルムによる、全世界で1000万枚以上を売り上げた大ヒット曲。1967年のリリースから半世紀を経た今も色褪せないエモーショナルな旋律が、登場人物たちの心情を際立たせる。
監督は、『或る終焉』でカンヌ国際映画祭脚本賞、『ニューオーダー』でヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞するなど世界で高く評価され、人間の内面を真正面から、時に観る者を不安に陥れるほどの描写で描いてきたメキシコの俊英ミシェル・フランコ。新境地とも言える本作では真実を愛で包み込む奥深い視線で、今この時代に希望に輝くエンディングを届ける。
1977年カリフォルニア州生まれ。ジュリアード音楽院を卒業。2008年に「Jolene(原題)」で映画デビュー。テレンス・マリック監督作『ツリー・オブ・ライフ』(11)の主要キャストに大抜擢される。『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(11)でアカデミー助演女優賞、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)で同主演女優賞にノミネートされ、高い評価を受ける。『アメリカン・ドリーマー理想の代償』(14)ではゴールデングローブ賞助演女優賞のノミネートを始め、多くの賞を獲得。『タミー・フェイの瞳』(2021)ではアカデミー賞主演女優賞受賞を果たした。数々の話題作で活躍しハリウッドで最も人気のある女優のひとりである。近年の主な出演作に、『インターステラー』(14)、『オデッセイ』『クリムゾン・ピーク』(15)、『スノーホワイト 氷の王国』『女神の見えざる手』(16)、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』『モリーズ・ゲーム』(17)、『X-MEN:ダーク・フェニックス』(18)、『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』(19)、『AVA/エヴァ』(20)、『355』(2022)、『グッド・ナース』(2022/Netflix)、『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(2022)など。
1971年イリノイ州生まれ。バード大学に通い、セントルイス・ワシントン大学では即興演劇集団「Mama's Pot Roast」を設立。『ニュースの天才』(2003)で全米映画批評家協会賞 助演男優賞を受賞。
『フライトプラン』(2005)ではジョディ・フォスターと共演。近年の主な出演作に、『ジャーヘッド』(2005)や『17歳の肖像』(2009)、『エスター』(2009)、『ナイト&デイ』(2010)、『ブルージャスミン』(2013)『ラブレース』(2013)『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(2016)、『THE GUILTY/ギルティ』(2018)『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)など。2008年にはアントン・チェーホフの「かもめ」でブロードウェイデビューを果たした。
1980年ニューヨーク・マンハッタン生まれ。サラ・ローレンス大学卒業。テレビドラマ「ナース・ジャッキー」(2009~2015年)で、2012年と2013年に2年連続、プライムタイム・エミー賞助演女優賞(コメディシリーズ部門)を受賞。テレビドラマ「ゴッドレス -神の消えた町-」(2017)で、プライムタイム・エミー賞助演女優賞(リミテッドシリーズ部門)を受賞。映画での主な出演作にはショーン・ペン監督『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)、ロバート・ゼメキス監督『マーウェン』(2018)、ノア・バームバック監督『マリッジ・ストーリー』などがある。
ニューヨーク出身。モデルとしてキャリアをスタート。その後テレビに進出し『007 ノー・タイム・トゥー・ダイ』(2021)のキャリー・ジョージ・フクナガ監督によるドラマシリーズ「マニアック」(2018/Netflix)でエマ・ストーン、ジョナ・ヒルと共演。『あの歌を憶えている』で長編映画デビューを果たす。
1949年イリノイ州シカゴ生まれ。ブロードウェイミュージカル「ヘアー」に出演し、女優としてのキャリアをスタート。ブライアン・デ・パルマ監督作『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)で長編映画デビュー。その後1977年にはダリオ・アルジェント監督によるオリジナル版『サスぺリア』に主役のスージー役で出演し、世界的に有名になる。その他の出演作にアンソニー・ミンゲラ監督『最高の恋人』(1993)、ウディ・アレン監督『ウディ・アレンの愛と死』(1975)、『スターダスト・メモリー』(1980)やスティーヴン・スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』(2002)、ルカ・グァダニーノ監督『サスペリア』(2018)、『ボーンズ アンド オール』(2022)など多数。映画以外にも数多くのテレビシリーズに出演するほか、作家や作曲家としても幅広い分野で活躍している。
1971年メリーランド州ボルチモア生まれ。ジョン・ウォーターズ監督『ヘアスプレー』(1988)で映画デビュー。『いまを生きる』(1989)では、ロビン・ウィリアムズとイーサン・ホークと共演。その後、『S.W.A.T』(2003)、『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』(2015)、『嘘はフィクサーのはじまり』(2016)などに出演。ドラマでは、「Sports Night」(1998年~2000年)や、「グッド・ワイフ」(2009年~2012年)、「Away -遠く離れて-」(2020年/Netflix)などに出演している。
2003年カリフォルニア州リバーサイド生まれ。アニメ映画『怪盗グルーの月泥棒』(2010)、『怪盗グルーのミニオン危機一発』(2013)では主要キャラクター「アグネス」役で声優を務めた。またニキ・カーロ監督『マクファーランド 栄光への疾走』(2015)ではケビン・コスナーの娘役を演じ、スティーヴン・キング原作のドラマ「キャッスルロック」(2019)ではアンドレ・ホランド、ビル・スカルスガルドと共演。『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2019)や『ベスト・フレンズ・エクソシズム』(2022)では主演を演じた。
1979年メキシコシティ生まれ。2012年『父の秘密』でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを獲得後、2015年には『或る終焉』で同映画祭のコンペティション部門の最優秀脚本賞を受賞、さらに2017年『母という名の女』では「ある視点」部門で審査員賞を受賞したほか、数多くの映画賞を獲得。そして2020年『ニューオーダー』でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。ほとんどの作品で監督・脚本・製作を務めるなど、その強烈な作家精神で常にメキシコ映画界をけん引し世界の注目を集めてきた。2015年のベルリン国際映画祭パノラマ部門で最優秀新人監督作品賞を受賞したガブリエル・リプスタイン監督の『600マイルズ』、同年ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したロレンソ・ビガス監督の『彼方から』などの製作も手掛けている。
私は、何らかの理由で社会の隙間に落ちてしまう人々についての映画を作りたかったのです。期待に応えられない、あるいは応えたくないという彼らの気持ちは、多くの場合、彼らの記憶の中にしか存在しない出来事に根ざしています。しかし時には彼らの疎外そのものが、過去の影からの脱出、現在の生活を築くチャンスを与えてくれるのです。記憶とは、本当にその影から逃れられるかどうかなのです。
記憶を塞ぎたい女と、記憶のできない男。名曲「青い影」のメロディが、二人を希望へと繋いでいく。これは魂の再生の映画だ。
忘れてしまうという苦しさだけが、
生きていく支えになる。
そんな時の訪れを、わたしも待っているのかもしれません。
忘れたい女
忘れたくない男
記憶に縛られた2人の人生が交差した時
少女が取った純粋な行動に
胸が熱くなった
昼はまるでA.ワイエスの「オルガ」のような光が差し、夜はE.ホッパーのような孤独な闇が包み込む。
幽霊のように深い深淵を彷徨う大都会の人々が、一縷の望みを探し求める姿は、神話的でもあり日常的だ。
人が生きていくということは、傷という痕跡がつけられていくことだ。
その傷は自己治癒により、いずれ瘡蓋(かさぶた)となる。
瘡蓋というタトゥーがあるだけ人は優しくなれる。
誰かの心に無理に踏み込まず、しかし、誰かを思うことで一歩踏み出せる。
痛みとやさしさが溶け合う温かなものが、静かに胸に流れ込んできました。
図らずも背負ってしまった大荷物を
下ろすことができずに生き続ける。
悲しみと苦しみと虚しさに心蝕まれ
薄暗いトンネルの中を走り続ける。
そんな2人が出会い惹かれる瞬間を
劇的ではなく詩的に見つめ続ける。
愛を求めることで、人は救われる。
素朴で美しくしあわせな物語でした。
シルヴィアの生き方に涙が出ました。
記憶を失った男性と、記憶に苛まれる女性が出逢ったことでお互いの傷を解きほぐして融和していく距離感が素晴らしい。ラストの「MEMORY」とタイトルが出るシーンで一気に涙が。
映画で流れる「青い影」がとても印象的でした。なつかしい歌でした。
人を傷つけるのも人だけど、人をいやして助けられるのもまた人だと感じられました。
登場人物がみなそれぞれに完璧ではなく、どこかいびつで、誰かしらに共感することが出来ました。とても心があたたかくなる、やさしい映画でした。
幾層にも重なった奥行きに圧倒されました。心にジワリとしみいる、静かなのに強く心を揺さぶる作品でした。客観の持つ美学は、何度も味わいたくなる余韻を持っていました。
ふたりがそれぞれの足りない部分を補うように、生活している姿が、とても素敵で、こうなりたいなと思った。
シルヴィアの視点で観ても大変な物語だが、アイザックやシルヴィア、サラの立場で考えても複雑な物語だった。アナのように良し悪しを堂々と表明できる勇気が眩しかった。
エンドロールの曲中でどんどん涙が出てきました。家族のことや自分に置きかえながら観たり、映画の中の人物に想いを馳せたりしながら観ました。とにかくみんな、3人だけじゃなくみんな、幸せになって欲しい。
キャラクターそれぞれに共感できる部分があり、何度でも観たいと思いました。
人と関わって、傷を癒していく様子の過程がよかったです。
非常に繊細で隅々まで考え抜かれた素晴らしい作品でした。
ジェシカ・チャステインだからシルヴィアが演じられたと思います。
認知症のソールとシルヴィアの今後はとても大変だと思いますが、
どうか娘アナも含め、幸せな時間をたくさん過ごせることを祈っています。
チャステインとサースガードの忘れられない演技。
深く印象に残り、その重要性が鑑賞後も変化し、拡大していく。
ミシェル・フランコの最高傑作!魅惑的。
チャステインとサースガードの素晴らしい演技に支えられたこの寓話的ラブストーリーは、ゆっくりと心に染み込んでいく。観客は涙を流すに違いない。
チャステインはキャリアにおいて、強い内面を持つ女性だけを演じてきた。
彼女の頑固な外面が内側から崩れていくのを見るのは、感動的だ
この2人の絆には説明されていない部分がたくさんある。それこそが美点だ。
ジェシカ・チャステインが現役の最高のアメリカ人女優であることを再び証明している。
紛れもないパワーを持った作品。今の時代に必要な映画だ。
美しい愛の映画。
ジェシカ・チャステインは本当に素晴らしく、息を呑む。ピーター・サースガードは、常に崖っぷちにいる役柄を抑制された最高の演技を見せた。傑作だ。
ミシェル・フランコ監督は、優しさと希望に向かって進むことで驚きを与え、新鮮で素晴らしいメロドラマを作り出した。